『素子の碁』

『素子の碁 ~サルスベリがとまらない~』 新井 素子 中央公論新社
以前、週刊碁に連載されていたときに、新井素子氏がコラムを書いているのに気がついて毎週この新聞を読んでいるわけでもなかったので、早く本にならないかなと思っていたのはいつだったか。

本書が出て、単行本なのでと躊躇していたのだが、図書館で見つけて読んだ。

週刊碁の連載は、2006年10月16日号から2008年10月13日号までだったというので10年前の話になる。
普通、作家の作品は、連載が本になるときにそれほど手を入れられないのだが、今回のエッセイは、大幅加筆したという。その理由は、「まえがき」に書かれている。

 ●〇まえがき
 これは、囲碁についてのエッセイです。以前『週刊碁』(日本棋院)という媒体に連載
させていただいたもの。
 その時の事情については、一回目の原稿にも書いてあるんですが、囲碁の専門紙って、
当たり前ですけれど、碁が強い人の文章ばかりが載っているんですよね。で、この原稿
を書いた当時の私は、とっても碁が弱かったから、「弱い人の話も聞いて!」っていう気
分で、この原稿、書かせていただきました。
 で、今回、この原稿を本という形に纏めさせていただくに際して、ちょっと欲がでてき
てしまいまして。
 勿論、囲碁を知ってる方に楽しんでいただけるととても嬉しいんですけれど。
 ちょっと欲をだして。囲碁、知らない方にも、読んでもらえたら、嬉しいなあ。
 そんでもって、更に欲をいえば、この本を読んで、「囲碁って面白いかも知れない、私
もやってみようかなあ」って思っていただけたら、すっごく嬉しい。
 という訳で、いろいろと手をいれてみました。

初心者には、囲碁の用語がわからないので、囲碁用語の説明を詳しく書くようにしたとの事。

プロ棋士は、囲碁が強くないころは、まだ小さな子供だったので、どうやって覚えたのかあまり記憶がないそうで、初心者が何に躓いているのかが理解できないというのだ。

何事も同じようなことがあり、なかなか覚えられなかった人が、苦労して覚えることができると、それが経験になって、人に教えるときも、どこで躓いているのか、どうすれば改善できるのかの方法論ができてくるのだろう。

ヒカルの碁の人気からゲームボーイで囲碁をやっている友人がいて、皆で囲碁をやることになった8人。
素人ばかりで、ゲームボーイを教師にしていたが、

 まあ、私達八人は、初心者もいいところで、ルールすらよく判っていなかったから、井
目(石を九個置くこと。最大のハンデです)おいても、まったく”碁”にはならなかった
のですが。(だもんで、”いくらでも石置いていい”状態になってしまいました。)
 んでも。生きている人間相手に碁を打つことができましたんで、それだけで、私達初心
者は、パワーアップ。
 それに大体、相手が生きている人間だと、質問に答えてくれるもんなー。それだけで
”こんなありがたいことはない”っていう気分に、なってくるもんなあ。(普通の、盤面半
ばで発声するコウなんかはまだいいんですけれど、一の一や二の一あたりでコウが発生し
た場合、これは同形反復って言っていいのか? どれがコウで、どれが石いれていい形な
のか? これ、ほんとの初心者には判らないです。しかも、ゲームボーイは、質問しても
答えてくれない……。)

人工知能が強くなったと言っても、試合には使えても、教師にはできないということだ。

今のところ、初心者に囲碁を教えようとしたら、人間が説明しながら打ち、初心者の質問にも丁寧に答えてあげる必要があるということだ。

ある程度、囲碁が打てるようになったら、AIが、その人の棋力に合わせて、詰碁を出題したりすることは可能だろうが、質問に答えてくれる仕組みを作るのは難しいだろう。

囲碁用語も使えない初心者が電話で囲碁の詰碁を考察する場面

「それで。今そこに碁盤あります?」
「あ、その前に、これ、コードレスじゃ、ない。碁盤の前に行って、電話の子機持ってき
て、折り返しこっちから電話するわ」
「すみません、お願いします。こっち碁盤の前で待機します」
 いやあ、こうして文章にしてみると……なんか、凄いですよね。まるで緊急の大災害か
我が家がERみたいだ。
 私は即座に碁盤の前にゆき、問題の詰碁を並べて、折り返し電話。
「はい、碁盤の前にすわりました。問題の図も並べてます」
「で、素子さん達が考えた、問題の第一手は、碁盤の一番下の線を一とした場合の三つ目
の線上にある、えーと、今度は碁盤を無視して石だけ見て、左、から数えて三つ目の白石
の隣に打たれた訳ですよね、そして、それに対して白は、その石から見て……」
 以前、”棋譜並べ”の原稿を書いた時にも、思ったのですけれど。
 仮にも囲碁の話を書いていて、この、”書き方”はないだろうって御意見が、おありな
のではなかろうかと思います。”三線”とか”四線”とか、場所の特定をできる言葉があ
る訳だし、いや、もっと言っちゃえば、普通、碁盤の上のポイントは、数字で特定ができ
る筈。それに、”右斜め上いっことんで”なんて言い方をしなくても”ケイマ”とか、用
語っていうのがある訳だし。
 ですが。この頃の私達は、そんな用語をまったく知らなかったので……”ぐずむ”とか、
”放り込む”とかって言葉を知らずに、数字で場所の特定もできずに、それで詰碁の石の
位置を、しかも電話で説明しようと思うと……これは無茶苦茶難儀です。
「ああ、はい、置いてみました」
「そこで、ですね、今まではこの石、とっちゃいましたが、とらずに、碁盤で言う処の左
から数えて……」
 ……変な言い方になりますが。
 思い返すだに、とっても愛しいです、私、この頃の初心者達が。

そして、半年くらいして、素子さんの旦那さんと二人で、日本棋院の囲碁教室に通うようになって、少しずつ級が上がって、いって、旦那はこのエッセイが終わる前に初段になり、素子さんも同じくらいの強さんなのだが、対戦の関係で5級くらいになった。

そして、先生に「さるすべり」の止め方を習ったのだが、実際に打っていると、

ああ

「サルスベリが……とまらなかったんです……。で、結果、右下の石が落ちました」

さすが、作家だ。連載の結末がどうなるのかもわからないうちに連載のテーマを与えられて、そして、最後にはきっちり”落として”くれた。

実話なのか、創作がかなり入っているのかは分からないが、囲碁を知らないひとにもお勧め。
これを読んで囲碁をやりたくなってくれたらいいな。






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