『ヘンな論文』

『ヘンな論文』 サンキュータツオ 角川文庫
学術論文は、真面目な論文なのであるが、取り扱っているテーマが本当に真面目なの?
と疑問符がつくものもあるという。

アメリカではイグ・ノーベル賞という可笑しな発明を称賛するものもある。

本書では、芸人サンキュータツオ氏が集めたヘンな論文を紹介しているものである。

ヘンなテーマを扱った論文では、あるが時として立派な研究になることもある。

コーヒーカップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯をかき混ぜているとカップとスプーンの接触で発する音の高さが次第に高くなるという。

論文を発表したのは、高校の物理の先生。先生にその疑問を提示したのは、教え子の女生徒。その二人による研究論文が学会誌に掲載されているという。

音程が変わることを測定器で測定して、理由不明だが、ある条件で必ず発生するという。

 であれば、これを検証するためには、どんな実験をするべきであろうか?
 そう、今度は「インスタントコーヒーを入れず、お湯だけをカップに入れ、スプー
ンでかき混ぜる」という実験である。これで音が変わったら、原因は単なる容器の温
度変化という線が濃厚になる。
 さて、その結果は……音の高さは変わらない! つまり、音程は一定していたので
ある。そりゃそうか……。しかし、こうした「当たり前」から疑ってかかってしらみ
つぶしに実験していくのが科学なのである。ここからわかることは、音程が高くなっ
ていくのは「カップの問題ではない」ということだ。一歩前進。
 となると、やはり原因は「インスタントコーヒー」しかない。これは受け入れるし
かない事実である。まさか、いつも口にしているコーヒーに、なにかとてつもない化
学変化が起きているというのか!?
 少し、冷静になろう、うん。問題点をもう少し絞ろう。
 こういう考え方をしてみてはどうだろうか。--「コーヒー伊賀の粉末飲料を溶か
した時にも音程は変化するのか?」
 インスタントの味噌汁やカルピスのような「粘度の高い液体」と違い、「粉末」で
あることに原因があるのではないか、という考え方である。言い換えれば、インスタ
ントコーヒーの問題なのか、広く「粉末飲料」全般の問題なのか、ということである。
 というわけで2人は、コーヒー用の「クリームパウダー」(「クリープ」や「マリー
ム」の類である)だけをお湯に溶かしてかき混ぜてみた。すると……。
 んっ? だんだん音程が高くなっていくではないか! そう、音程変化は、インス
タントコーヒーだけではなかったのである! ちょっとどうなってんのさ、これ大発
見なんじゃないの?
 いや、2つの事例だけで結論づけるのは早いかもしれない。そこで、インスタント
ココアを試してみたところ、こちらも結果はおなじ。ということは、問題は「粉末」
全般にあると言えそうだ。

実験はさらに、いろんなものを溶かしてかき混ぜる。
 お茶の葉 ×
 砂糖   ×
 食塩   ×
 入浴剤  〇

そして、原因は、粉末から発生する気泡にあるのではないかと、核心に迫っていく。

なかなかの研究である。論文に仕上げて、発表しようとして、研究論文につき物の先行研究の調査をして、国内には無いことが、確認された。

さて、海外である。探したところ、何と米国から論文がでてきた。
しかも1966年。

1966年の論文では、音程計測がされていなかった(人の聴覚での測定のみ)ので、日本でのこの研究は音程測定もしてるので、科学的に測定した論文は世界初となった。

科学論文のつくり方というのは、プロセスが明確で、そのプロセスをきちんとやっているのか。再現性は、確かなのか。ということが重要で、そして、先行研究が無いものが学会での発表に値する。

既存の発表をなぞったものであれば、既存のやり方ではない方法で検証するとか、より精確に測定したとか。そいう観点で価値がでてくる。

ヘンな論文には、実用的かどうか、役に立つかどうかは関係なく、面白いものが採用される。

別の研究としては、コンピュータは、いろんな計算をいともたやすく行ってくれる。
LINEのチャットボットには、「しりとりゲーム」が得意なキャラクターがいる。

「しりとり」は基本的に、いかに多くの言葉を知っているかが勝負の分かれ目になる。

 このしりとりに挑んだ学者たちがいる。しかしそれは、「相手がすぐに答えに詰ま
るような方法を考える」という研究ではなく、「どれだけ暇つぶしできるか」、つまり
「どれくらい長くしりとりを続けることができるのか」という研究である。そう、そ
れが今回取り上げる「最長しりとり問題」である。
 といっても、大勢でしりとりをやったわけではない。この論文は、4人の学者によ
って書かれたものだが、頭のいい大人4人でしりとり総当たり戦をやったわけでもな
いのだ。
 では、なにをやったか。
 コンピュータでしりとりをなるべく長く続けられるプログラムづくりを目指し、そ
れを計算させたのである!
 ま、いずれにしても気が遠くなるような所業なのだが、どうなるものか、やればわ
かるさ、バカヤロー! という精神で、本気でしりとりに取り組んだ論文なのである。
 …… 中略 ……
 ここからが本当に理系の人たちってすごいと思うところなのだが、どうやってこの
問題を解こうとしたかというと、彼らはまず、単語を分類したのである。単語の分類
というと、名詞や形容詞や動詞といった品詞に分けることが思い浮かぶかもしれない
が、そうではない。
 よく考えてみてほしい、しりとりに必要なのは、単語の最初と最後の文字だけ。た
とえば「信号機」も「四季」も「信楽」も「新世紀」も「しぶき」も、全
部「し」ではじまり「き」で終わる。肝心なのは、「し」ではじまって「き」で終わ
る、意味の違う単語がどれだけあるか、ということだけだ。品詞なんて関係ない。
 そこで、たとえば「しき」グループをつくる。これは「し」ではじまって「き」で
終わる単語のグループだ。こうして、日本語の単語をすべて、2文字のグループに変
換してしまおうというわけである。開始と終了の文字だけでグループ分けしようとい
う発想。見習いたい、このドライな発想!"しりとりMADサイエンティスト"たち
にとっては、単語の意味なんかどうだっていいのだ。
 次は、単語をつないでいく作業に入る。たとえば、「あい」グループの後に「いす」
グループをつなげて、その次に「すか」グループにつなげていく。
 そして、ここからがこの問題のキモ! というのも、「あい」グループの次に、「い
か」グループをつなげるか、「いす」グループにつなげるか、「いま」グループにつな
げるかで、最終的な最長のつながり方が変わってくるからである! うひゃー、これ
は計算大変だ。
 将棋でも、何手も先まで読んで、そこから逆算して目の前の最善手を打つ。コンピ
ュータが将棋を打つ場合でもそうなのだが、単語のつながり方は、単純にいえば「あ
い」の後ろにつなげる「い〇」の〇に入る仮名は、「あ」から「を」まで47パターンあ
る。そして、その後ずっと「47パターンのうちどれがベストか」という計算が続くわ
けである。そして、なかには単語が少ないグループもあれば、大量にあるグループも
ある! これを想像するだけでも、この最長しりとり問題の難しさを、ご理解いただ
けると思う。

なんで47パターン?
と思ったのであるが、ワ行のほかにヤ行も5つないとしたら。マイナス5で45パターン。
それとも「ゐ」とか「ゑ」とか区別してるのかな。

それは、おいといて。さてこの問題の答えは?


 単語数が13万7335個ある辞書(国語辞典としては中型の部類、『広辞苑』の単語
の項目)で計算した場合、一番長いしりとりで、なんと5万6519単語も続いたの
だ。これが「最長しりとり問題」の解である。
 さらに驚くべきことに、これをどれくらいの時間で計算したかというと、わずか
0.53秒! 1秒かかっていない。落ち着いている人のまばたきくらいの時間で、
やってのけてしまうのだ!

計算は、まばたき一回で終わるのかもしれないが、その計算のための準備の時間はそうとうかかったのだろうなと思う。
辞書から単語を拾わせ、その頭と尻尾の組み合わせを分類して、それぞれの分類の個数を数える。
並べ替えながら、最長の長さを求めるアルゴリズムが一番難しそうだ。

さて、ヘンな論文は、理系だけに限らない。

例えば、湯たんぽの研究。
どんな形状が、一番長持ちするかというのではなく、どの時代にどんな形の湯たんぽがあるかを調査したものだ。

最初に登場したのが室町時代。

そして、江戸時代中期から後期にかけて、姿を消すという。

国内の資料だけでなく、海外から日本に来た人が書いた資料を当たっても見当たらない。

「湯たんぽの謎は、深まるばかりである」
 謎がふかまっちゃったよ! なんだよ調べてわかったことを書いてくれてるんじゃな
いのかよ! と思わずツッコんでしまいたくなるのだが、落ち着いて考えてみよう。
知ろうとしたことで、知らないことが増えていくという、無駄な努力パターン。しか
し、多くの学問はまさに、この「知る以前よりも、知らないことが増える」というパ
ラドックスに憑かれているのだ。宇宙研究でも、量子力学でも、少し知ることによっ
て、さらなる「謎」が倍以上跳ね返ってくる。人類は、この繰り返しのなかで、それ
でも研究を止めずに進化してきた。この、一見論文に残すべきではないかもしれない
「湯たんぽの謎は、深まるばかりである」という言葉の裏に、新たな謎に出くわした
ときの、学者の心の底からの喜びが読み取れる。このあたりまできて、私は、これは
なにか尋常ではない、深淵なるものに触れている感じがしてきた。笑いながらも、真
剣になにかに向き合っている人の強さに触れた感じがしたのだ。

この論文には、江戸期に湯たんぽが消えた謎についての仮説が書かれている。

謎は、謎なんだが、自分は、こう考えるという仮説が書かれているので、論文として成り立っているようだ。

本書は、この湯たんぽの論文で終わっているが、まだまだ、ヘンな論文はあるようで続編もでている。

ヘンなものでも沢山集めるとエッセイができるんだ。なるほどね。






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この記事へのコメント

2020年02月16日 12:55
こんにちは

面白いタイトルですね。
それが変なのかどうか、私はわからないでしょうね。