「忘れる脳」の構造改革

『「忘れる脳」の構造改革』 千葉 康則 小学館文庫
 医学博士 千葉先生が解き明かす「脳のしくみ」です。脳の働きを「忘れる」という観点から解き明かしていきます。

 第1章、第2章は、人間の脳と動物の脳を比べながら、どんな働きをしているのかを紹介しています。第3章からが本題でまずは「間違え方のいろいろ」と題して脳の記憶は、結構間違って覚えていることをどういう風に間違えているのかを解説しています。

 第4章では「忘れ方のいろいろ」と題して忘れるのはどんな状況なのか忘却曲線に始まって度忘れや病的なケースまで紹介しています。毎日いろんな事を体験していますが、忘れる事が無いならば、いらない事も何時までも覚えていて、本当に覚えておきたい事を覚えられなくなるのではないか、覚えたい事を覚えておく為に忘れるという機能も脳には備わっているという考え方だ。

 第5章では、「覚え方いろいろ」と続きます。忘れる事を解明した暁には忘れないようにするにはどうすれば良いのかのヒントをくれます。今日はこの章から引用してみたい。


丸暗記は非現実的
ところで、ことばがわかるとは、どういうことでしょう。その話に筋が
ある場合には、その筋をたどれることが必要になります。つまり、論
理的な因果関係を追うわけです。しかし、これはことばに筋がある場
合であって、全体が「見える脳機能」の世界にある場合です。科学や論理学の分野に
属するものです。
 しかし、それとは別に、理屈はわからないけれど、なんとなくわかる。というわか
り方があります。「見えない脳機能」が関係をとらえた場合です。直感、感性または
ひらめきのはたらきといわれるものです。たとえば、外国語などは、文法とかスペル
にはっきりした法則がない場合も多いのですが、だんだんと感じがわかってきます。
日本語でも文法などを考えて使っている日本人は少ないでしょう。
 要するに、身についてゆくと、見えない脳機能がなんとなくわかってゆくのです。
単語の組み合わせではなく、全体の構造や流れがわかってゆきます。こういうわかり
方でわかったことも、ひとりでに覚えます。
 このように考えてくると、要するに、使える知識はわかったことになるし、わかっ
た知識は使える、ということです。その使い方には、自由に話し合ったり、書いたり
することもできる、ということも含まれています。勉強を日常化することが、それを
わかるためにも、覚えるためにも必要なのです。
 この辺の仕組みがわかってくると、「頭がいい人」とか「頭が悪い人」といわれる
人も生まれつきの差によるものではないことが納得できます。つまり、丸暗記も含め
た無意味言語の記憶に頼って勉強している人は、効率が悪いだけではなく、勉強を嫌
いになってゆきます。無意味言語の記憶もくり返しで覚えることはできますが、効率
が悪いし、わけのわからないことを覚えても役にも立たないし、興味ももてませんか
ら、面白いはずもありません。興味や関心が持てないことに脳を使っても、脳は決し
て元気には活動しません。そのために、わかって覚えるという手間のかかる勉強をす
る意欲が持てず、ひたすら覚える勉強に終始します。勉強はますますわからなくなり、
ますます記憶に頼り、ますます勉強から遠ざかるようになります。


どんな人でも自分の興味のある事であればどんどん沢山の事を覚えて、それらについてすらすらと説明できるようになります。覚えたいと思ったら、興味を湧かせてその事について見て聞いて話したりやってみたりできるようになると、よく覚えられるということですね。

 さて、第6章では、「わかり方いろいろ」という事で、覚えたこととわかったことは違うと言っています。覚えていても本当にわかっていなければ何にもならないということで、学校の勉強ではさまざまなことを覚える必要がありますが、覚えていてもわかっていなければ、応用もできないし、考えて別の問題を解くこともできないといいます。第7章では、その学校教育での競争原理は神話だと言って否定しています。覚えることで競争しても何にも役に立たない。覚えたことをわかって、考えれるようになる必要があると説いています。

 単に覚えているだけでいいのであれば、もう人間はコンピュータにかないません。簡単なルールに則って答えをだせばいいのであれば、コンピュータの方が考えていることになります。8×8の60手しかないオセロ(リバーシ)はもちろん、手数のもう少し多いチェスも世界チャンピオンに対等に闘えるくらいコンピュータのプログラム技術と計算能力は進化しています。チェスより手の多い日本の将棋も最強のコンピュータプログラムはプロの領域に入りつつあります。19×19という更に広い囲碁の世界では、コンピュータはアマ有段者クラスまできています。今後5年、10年でコンピュータの性能はますます上がっていくので、囲碁もトッププロの能力に近づいていくものと思います。課題はコンピュータのプログラミング技術にあると思います。パソコンが出始めた1980年代にパソコン雑誌ではオセロのプログラム技術を競っていましたが、今では、その舞台を将棋や囲碁に移してきています。人間は一度指した手を何時までも全てを覚えている事はできませんので、間違いや記憶違いもあり、それによって勝負が分かれていく事があります。コンピュータは結果の良くない手をきちんと判断できるようになればより強くなります。

コンピュータは一度記憶されたものを普通は忘れません(ハードディスクや記憶装置が故障したり、間違って消去してしまった場合は別として)。皆さんのパソコンにも過去に作ったり、入手した様々なデータが入っているはずです。
パソコンのディスクにデータが溢れたら、それ以上新しい事を入れられなくなります。人間の脳はそれ以上入れられなくならない為にも忘れるという事が重要な働きをしています。忘れる為には、必要な情報かどうかを判断していらないものは忘れ、必要と思われるものは記憶するというメカニズムが必要です。本書ではその辺のところまでは、踏み込んでいませせんが、私は記憶を整理するのに必要なのが睡眠だと考えています。だから、覚える事が多い子供は特に長い睡眠時間を必要としており、成長するに従ってある程度短い睡眠時間でも生活に支障が無いのだと考えています。日中に覚えた事をより長く覚えておこうと思う人は睡眠時間をタップリとる事をお勧めします。子供なら8~9時間、大人なら6~7時間くらいでしょうか?受験勉強している受験生が、徹夜で暗記しているなんていうのは感心しません。そんな勉強(記憶)は試験が終ってしまえば、忘れるようにできているのです。人生の一時期に必要な事とは言え忘れてしまっていいことに時間を費やすような無駄な生き方はやめて、コンピュータにはできない考える力を伸ばしていきましょう。






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