『勝負』

『勝負』 升田 幸三 中公文庫
 偉大な将棋棋士の升田幸三は単に将棋がつよいだけではないらしい。本書を読んで感じた最初の感想だ。

 本書の第二章 駒の哲学では「歩の働き」、「香車の働き」等、各将棋の駒を会社組織の役職者に例えて説明している。「桂馬の働き」では変り種の社員にたとえ、銀、金では銀は課長、次長、金は部長と言う。

 それに銀というのは、ちょこちょこするけれど、これは案外、正直者なんです。なぜ正
直かというと、いちおう出先で仕事をしたら、本社へ報告に帰るんだ、あれ。こうこうし
てまいりましたいうて……。
 それで銀には、帰り車を二つつけてある。右折左折、どっちでも通って帰れるように。
だから出たらすぐ報告に早う帰ってこられるようにしてある。そういう便利で律儀なとこ
ろがありますから、前線に出すわけですよ。
 で、金はまぁ、一般社会でいえば、部長みたいなもので、これは銀よりは能力をもって
はおるんだけれども。前線へ出すと、本社へなかなか帰ってこないんだ。どこへ寄るのか、
料理屋で一杯やるのかバーで一杯やるのか知らんが、そのまま本社へは帰らずに行きっぱ
なしになってしまうようなところがある。だから金のほうは、あまり前線には出さんので
す。
 というのも、金は帰り車が一つしかない。それも真っすぐうしろへバックするだけの車
しかついていない。だから真っすぐ出かけて行ったときには帰ってくることができるけれ
ど、斜め前へ前進して味方の駒のまえなんかに出たりすると、一大事だ。一手で進んだの
に、二手かけないと帰ってこられない。
 銀のほうはどうかというと、帰り車は真っすぐうしろへは下がれないかわり、左右なな
めうしろの二方向についている。だから斜め斜めへ動かしたほうが働きがいいわけだ。
そういう機能をよくのみこんで、使いこなすわけです。

 将棋のプロフェッショナルは、会社組織の成り立ちも、将棋の駒の働きになぞらえてよくわかる説明をしている。どちらも、人間が考えたものなのだから、似ているのは当然のことなのかもしれない。戦国の武将は囲碁や将棋で戦略を考えたという。著者はこんなことも書いている。

 つまり、その局面を将棋に当てはめてみる。会社でいえば専務が飛車、常務が角、ふつ
うの役員は金、というふうに配置してね。そうすると、ははァこういうぐあいか、こりゃ
ちょっとおかしいぜ、ということになる。経営のことでも、政治のことでも、みんないっ
たん将棋にかえして考えてみるんですな。
 もっともぼくには、自分で指していながら、将棋というものを客観的に見るクセがある。
そして将棋というものから、一つの哲学を会得する。それを応用するんですな。妙にひら
めくものがあるというのは、そのせいじゃないかと思ってます。
 ところが世間には、物事を自分の本職に当てはめて考える、という人が意外と少ない。
政治の問題を、自分の会社のことや経営に当てはめてみる、といった人がね。
 ほかの将棋指しもそうしているかどうか、これは知りません。知らんが、しかしわたし
は、このクセ、珍重してます。専門外のことでも案外によくつかめるし、おや、と思う発
見もあるもんですよ。

 偉大な人は、物事を観察する力、そこから推測する力、応用する力が備わっているのだと改めて感じ入った。升田氏も将棋を指すときは、全局をみながら、局所に手をつけると言っている。囲碁では、「着眼大局、着手小局」という言葉がある。目先の小事の判断をする場合でも大きな目標に対する効果というのを考えた上で実行していく必要がある事を教えてくれる。










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